第2章 闇を食む
拠点として使用していた建物が使い物にならなくなってから、翠は本部での仕事を余儀無くされた。初めて実家を出た頃は、首領である森医師の下で仕事を与えられていた所為か、懐かしくもある。
然し、件の襲撃の後から、中也が翠を顎で使おうと企てており、通常の業務に加えて、その対応に翠は慌しい。数年前を懐かしんでいる暇もなく、情報収集に当たる。
資金系部署の襲撃については中也に一任されており、当事者たる翠に心当りを指示することに関して、首領は咎めない。いっそ業務外と鶴の一声を頂ければ、翠はすべてを放棄してしまおうかと、目論んでいたのに。
「船籍は称号できたか?疑わしいものは全て一覧に載せていい。拘束した男の証言を樋口から回す様に云ったから、目を通しておけ」
翠の執務室に寄るなり、中也は矢継ぎ早に言付け、何時の間にか用意されていた持ち主不明のデスクに、然も当たり前の様に腰掛けた。翠は承知しましたと二つ返事をし、『中原幹部セット』と名付けた報告用の書類が収納された小箱を中也に渡しながら、其々の書類の意味を伝える。
中也が書類に集中し始めたのを見計らって、コーヒーを淹れた。まるで秘書だと揶揄われた事を思い出し乍ら、翠は額に手を当てて、業務に戻った。