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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第2章 闇を食む


翠が煩雑な情報整理に追われる最中、中也は時折、尾崎家の話を持ち出した。業務外の作業を敷いている詫びなのか、何かの思惑を含むのか、はたまた純粋な厚意なのか、翠には知る由もなかった。

コーヒーの香りと沈黙が漂う空間を、扉のノック音に遮られる。部屋の主である翠が応答すると、樋口ですと訪問者が名乗った。翠のどうぞという許可を待ってから、樋口は扉を開ける。

「資料をお持ちするようにと中也さんが…」

話題のその人が在室であると気付き、樋口は語尾を濁す。一方中也は、此方でしたかと声をかける樋口を一瞥し、手元の書類に専念した。それを良い事に、樋口は翠にお待たせしてすみませんと駆け寄る。翠も立ち上がり、お忙しい中ありがとうございますと、分厚い封筒に手を伸ばした。

「痣、消えましたね」

封筒を受け取った翠の左手首を、樋口が撫でる。件の襲撃で掴まれた手首には、暫くの間真っ青な内出血が居座っていた。他の負傷者に比べ軽症なそれを、樋口は大層気にかけていたようだ。

樋口が触れた翠の腕に、もう一つの視線が加わる。妙な凄みに、翠の首筋から鳥肌が広がった。

中也は往々にして殺気立つことがある。原因はその時々で異なるが、非道い時は、彼が此の部屋に向かって来るのが、其れと分かる程だった。逃げ出そうかと怯えていると、中也は迚も愉快だと云うように嗤う。機嫌を損ねている訳でも無さそうなので、血の気の多い人なのだと、思うことにしている。

今度は何かと、翠は中也を視界の端に捉えた。
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