第11章 禿山の一夜
一族という囲いで女の思考を奪い、そして用済みになれば切り捨てる。そうやって築いた一山の血統は、此の時代では歪に映る。責めて女が自ら学び、選択する力を蓄えるよう、形を変えなければ、近く崩壊の姿は目に見えている。
あの優しかった女性を、此れ程まで落ちぶれさせてまで、何を守っていたのだろう。財も血脈も、そして誇りも、全て守る方法はある。其れを模索せず、ただ仕来りに従うだけの家など…。
腹の底から湧き上がる様な怒りと共に、翠の異能範囲が急速に広がる。重力場と化した辺り一帯の、燃え盛るような憤怒の中、大狐が翠を包むように現れた。結界が張られた尾崎の屋敷内にしか出現しない筈の狐に、女は恐れて怯み後退りするが、背後の壁にぶつかり、ずり落ちたまま逃げ惑う。
狐は翠を拘束していた縄を喰い千切り、駆けつけた雇われの護衛たちをなぎ倒し、一面に響き渡るような遠吠えをした。広がり続ける翠の異能範囲中に反響する遠吠えが、翠の怒りを反芻し増幅させる。
ぶッ潰してやる
彼の人の声が聞こえる。そう思いながら、翠は自分と同じ目をした、狐を見ていた。