第11章 禿山の一夜
「暖まったら、美味しそうな食事を前に寝てしまって。お腹が空いたと泣く私に、握り飯とお八つをくれたのも、貴女だった」
翠の焦点は確りと女に合っている筈なのに、女の中にある虚像を見つめるように、柔らかな表情を浮かべて、思い出話に浸る。
「水のような粥しか食べたことない私には、本当に驚くほど美味しかった」
廓で生まれ、女郎になるものとして育てられていた翠は、其の変化の目まぐるしさに、従うことしかできなかった。母親は早くに亡くなったが、同じ客に二度も孕ませられる女郎など、使い物にならなかったに違いない。
そもそも、兄だけなら兎も角、翠は特に不自然な生まれ方だ。おおよそ、見繕った女を廓に置いたのだと考える方が、筋が通っている。女を隠すには、女で溢れ返った遊廓は都合が善い。御誂え向きの女が女郎だったのか、其れとも女郎に仕立てたのかは、翠の知るところではない。
何方にせよ能力が無ければ、其の侭捨て置かれたのだろうが、尾崎の子として、生まされた事に違いはない。忌まわしい血脈に縛られた、系譜の拡大への執念の、厭わしいことだ。