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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第10章 西方ニテ小競リ合イ有 鎮圧セヨ


事前に飲ませた睡眠薬では足りずに、直接鎮静剤を投与したにも関わらず、中也は一刻程で目を覚ました。翠であれば、半量でも半日気絶する上、その後は頭痛、目眩、吐き気のお祭り騒ぎだ。何という強靭な身体かと驚きを隠せない。本当に大丈夫なのかと念を押すが、伸びをして一言、悪い気分ではないと云い切るので、放っておく事にする。

人の話し声を聞きつけて、襖が開き、尾崎家当主である翠の兄が踏み入った。

「王子さまが、お目覚めのようだね」

翠によく似た面差しで、翠によく似た事を云うので、翠は此の兄が滅法苦手だった。今にして思えば、同じ発想をする人間が内外に居るのであれば、今回のように事を成そうとした場合に、都合良く互いの手足となり得るのだから、存外悪いものでも無さそうだと考えを改める。

「済まないね、此んな処に押し込んで。翠を受け入れるのは、此処しかないんだ」

一応は済まなそうな顔をする兄ではあるが、翠同様、大して悪いとは思っていない。素手で鉄筋コンクリートを砕く中也にとって、木造二階建ての格子座敷牢など、藁の家に等しい。狐の鼻先を小脇に抱えながら、中也は部屋を分断する格子に手をかけた。
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