第9章 常世枷
後ろ手で扉を閉めた中也は、建物を囲む男たちを見回す。散弾銃さえ無ければ異能の必要も無さそうな顔ぶれに大股で近寄ると、目の前の男は驚いた顔で銃口を向けて動くなと命じるが、其れに応じる中也ではなかった。
「手前ら何処の者だ」
中也の殺気と脅迫染みた言葉に、彼らの緊張感が高まる。其の中でも一際重装備の男が、構うなと声を上げた。目標は羽織の女だと云い聞かせるような台詞に銃口を震わせる男と反比例して、中也の異能が地面を抉る。重力に負けて這い蹲る男の頭をひとつ、蹴り飛ばしてから踏みつけて、もう一度、同じ質問を繰り返した。声を発する事すらできない状態になった其れに、更に云い募る。
「俺の女に用があるんだろ?云ってみろよ」
足場の崩壊で安定を失った男たちは次々と中也に蹴り飛ばされ、いたぶられて、凶刃に倒れる。押し潰され、踏み荒らされる中、襲撃者たちは質問の答えはおろか、せいぜい呻き声しか上げられなかった。
「其のくらいにして頂かないと、皆死んでしまいますよ」
いつの間にか店を出て、事の次第を眺めていた翠が、まだ自分の力で歩けそうな男を探して歩み寄り、囁く。
「依頼主に伝えなさい。私は尾崎翠。貴方たちを屠る者です」
翠の形の善い唇が、美しい弧を描いた。