第9章 常世枷
「何だァありゃあ」
黙って様子を観察していた中也は、扉が閉まるのを待たずに疑問を投げかける。其の時機では相手に聴こえてしまうではないかと思いながら、翠は振り返って中也を視た。随分と汚いものを視界に入れてしまったので、此の人で口直ししなければ、気分が悪くて仕方がない。
「正妻派のご親戚です。穢らわしい、金と権力の亡者」
信念のない者が金と権力を得た結果どうなるのか、試す理由も無い分かりきった事象を、何故誰も止めようとしないのか。自らの利益を得る事ばかりに気を取られて、力の使い方を知らぬ馬鹿ばかりで嫌になる。血族を守ると云って阿呆ばかりを集めていたら、どうせ一族に先は無い。
彼らにとって翠が邪魔な存在である限り、命を付け狙われるのであれば、いっそ美味そうな餌になってやれば善い。お前たちの敵は此処にいると見せつけていれば、彼らは食らいつこうと牙を向くだろう。そうすれば、毒を仕込む好機が勝手に遣ってくるのだから、翠は待つだけで善い。
やれやれと溜息を吐く翠より先に、中也は屋外の殺気に気付く。塵ばかりがウロウロとチラついて忌々しいが、鬱憤晴らしくらいにはなるかと、上着を翠に待たせた。其れを受け取りながら、お手伝いしましょうかと云う翠の申し出を却下して、中也は扉に向かう。
「其処で待ってろ」