第1章 防衛戦
壁にも似たコンピュータから、滑らかな動きで小さな情報を抜き出す様に迷いはない。まるで日常から変化のない手捌きに、些か苛立ちを覚える。中也は帽子を押さえてひとつ舌打ちをした。
ふと彼女がその手を止めた。ほんの一時、窓ひとつないこの部屋の、むき出しの壁を見つめた後、翠は振り返って、中也にその手を伸ばす。その時初めて、中也はこの建物の危機を感じた。
翠の手を引いて強引に腰を抱えたまま、むき出しの壁を打ち壊して、屋外へと躍り出る。通常の建造物であれば三階の高さに身を晒すと、地上には黒服の部下たちが、空上には黒い塊が見えた。
抱えていた翠を放り投げ、壁に着地すると、中也は黒い塊に向かって飛び上がる。近くで見ると、砲弾と思われる塊を、それを放ったと思われる海上の船舶に蹴り返す。派手な着弾音と共に、船舶に当たったそれが、盛大な水飛沫を上げたのを確認し、中也は地上に視線を移す。
放り投げたはずの翠が、相も変わらず事も無げに地に降り立っている様子に安堵すると共に、チリチリとした感情の圧迫感に苛まれる。
翠はどこか太宰に似ていて、腹が立つ。
そう思いながら、中也は翠の横に降り立った。