第9章 常世枷
出来上がりまで一ヶ月と聞くと、中也は不服そうに手を伸ばして、翠の腕を掴んだ。
「今日持って帰るのも選べ。物足りねェ」
身の回りのものは中也から賜ったものでいっぱいだと伝えてみるが、馬鹿を言うなと遮られる。
「可愛げがねェぞ。こう云う時は、受け入れろ」
駄々を捏ねる子どものような言い分に、翠は苦笑して了承した。こうなっては、梃子でも動かないだろう。一階の展示品を見てきても良いかと尋ねながら立ち上がると、従業員も総立ちとなって動向を見守る。良く教育されているようだ。
最後に椅子から離れた中也が動き出すのを見計らい、ぞろぞろと連なって階段を下りる。其の物々しさに、今しがた入店した客が驚いて後退るのが見えたが、今更離れて歩いた所で、最早素知らぬ振りもできまい。
責任者たちが代わる代わる翠と中也に付いて回るのを遠巻きにされながら、翠は何食わぬ顔で展示された品々を眺める。翠の髪を勝手に掻き上げて耳飾りを物色する中也が、やれ趣向が違うだの、色はこっちが善いだの、注文をつけ始めたので、もう好きにさせて置こうと決め込んで、美しい宝石たちを愛でることに専念した。