第9章 常世枷
展示された装飾品の什器の間を通り抜け、彫刻の施された階段を上がり、応接間に入る。通常より大きな卓子の上には、既にいくつかの石が並べられていた。更に後から部屋に入った従業員の手によって、先刻伝えた指輪の目録と、数点の現物が追加される。
結論を急ごうとする中也の決定速度に合わせた接客を提供するから、此の店は重宝していた。しかし今日ばかりは連れの速度に合わせなければならぬと翠を見ると、彼女はもう既に目録の頁を捲っていた。そう云えば翠は、流れに身を任せる事に関しては巧みな女だった。
「此方が先日からご提案しておりました、カラーダイヤです」
地質条件に寄ってダイヤモンドが天然の様々な色を作ると、従業員が説明する傍ら、翠は左手を女性従業員に差し出して号数を測らせ、目録と現物の中から指輪の台座を選び出して並べる。幾つもの作業を同時進行するとは器用なことだ。
彼女の手が止まったのは、従業員がダイヤの色について提案している時だった。ふと中也を見て、伺うような表情をする。
「好きに選べよ」
金は出すが、選ぶのは翠だと、中也は両手を上げた。一方で彼女は、もう決めたという顔で向き直り、二つの石が寄り添うように飾られたものを指差して云う。
「青と緑の石を、此の趣向で」