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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第9章 常世枷


車を降りると、一面硝子張りの美しい飾り棚が視界に広がる。堂々たる店構えに翠は小さく感嘆の声を上げた。見上げた拍子に中也が与えた簪が揺れている。

嗜好品の類を見て回ることのなかった翠にとって、店其の物が大変珍しいらしい。日用品に関しては、此の数年で常識的な物価を身に付けた様だが、其の他の価値観については非常識の域だ。中也が与える装飾品の持つ意味を、理解しているのかどうか、怪しい所である。

そもそも尾崎は御家柄、歴代の服飾類が受け継がれている所為で、広大な屋敷中に腐る程の嗜好品が有り余っていると聞く。其れ等を贈った者の与えた意味など忘れられ、蔑ろにされた物ばかりに囲まれて生きていたら、贈答品の持つ価値は無に帰してしまう。

何事も経験だなと思いながら、中也は物珍しそうに景色を眺める翠を、彼女が満足するまで待ってやる。時折足を止めて頰を染める翠を振り返りながら進んでいると、客人の来訪を察した販売員が出てきてしまった。

前回指輪の号数について中也に進言した販売員だ。連れてきてやったぞと親指で後ろを示すと、彼はいささか驚いた後、お待ちしておりましたと頭を下げた。
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