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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第8章 名もなき人々の肖像


尾崎の子女を引き取ると聞いた時には、其の言葉の通り、腰が抜けた。ついでに顎も外れた。組織の企業舎弟の多くが尾崎家との取引を持ち、特に金融関係に至っては所謂「太客」だ。ズブズブの関連企業ではあるが、清濁併せ呑む旧家のお嬢様を、濁のみ受け持つ組織に引き入れて、無事に生き抜けるのか、不安だった。

しかし例えどのような者がやって来たとしても、勘定方の長として、活動資金の管理だけではなく、組織の事務業務を行う者たちの管理を担うのだと決意を新たにしたのは記憶に新しい。

そう決意した筈だったのに、其れも微塵に砕ける程、翠は優秀だった。資金系の業務は元より、人員の配置や動機の管理まで、気付けば彼女に支配されていることが増えた。一方で身分を隠し、出世を望まず、誰かを隠れ蓑にして、手柄を付与した。人より早く仕事が終わる所為で、常に暇を持て余していたのが印象深い。

襲撃や混戦にも滅法強かった。異能者であることも手伝ってか、いつも怪我ひとつなく逃げ果せてしまう。緊急時に、自分も含めた管理責任者たちが挙って負傷し、翠に指揮権が移ることも多々あった。

彼女の其の姿勢が軟化し始めたのは、いつ頃だったか。時期は不確かではあるが、中原幹部の影響であることは、間違いないと云えよう。
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