第7章 心の重力
翠の両手の上に置かれた眼鏡箱程度の小さな贈物は、上質な紙で包まれた上、飾り紐によって華やかに彩られている。開封する事を躊躇う程に、完成された贈答品だった。
此れは一体と首を傾げる翠に、中也は唯、開けるよう促すだけで、理由や説明のひとつも付けてはくれない。戸惑いながらも飾り結びの片端を掴み、丁寧に紐解く。包装紙すら滑らかな手触りで、一度開けて仕舞えば、元に戻すのは至難の技だと思いながら、其の完成品に手を付けた。
包装紙の隙間から顔を出した紙箱を開けると、如何見積もっても、高級にしか見えない、天鵞絨で仕立てられた小物容れが鎮座していた。容れ物ですら驚く程の存在感であるのに、如何云った中身なのか、得意げな表情で立つ此の男に尋ねたいものだ。
一瞬の逡巡を経て蓋を開けると、中に収められていたのは、息を呑む程に輝く宝石が施された髪留めだった。其の美しさに気を取られている翠に、中也は満足気な表情を見せてから、翠の髪を梳る。
見舞いの品にしてはあまりに高価な髪留めに言葉を失いながら、翠は髪を結う中也の成すがままにされていた。