第7章 心の重力
見ているだけで忙しい人だ。先刻まで怒っていたのに、今とても優しい顔で翠を見ている。常に半覚醒の様な体調不良を抱えている今、中也の与える熱は、翠の思考を停止させるのに、十分な情報量だった。
唇を重ね、されるがままに其の欲望を受けていると、もう何もかも放棄して、このまま全て委ねてしまいたい肉欲に駆られる。喉まで飛び出てきている鼓動が身体の熱を上げて、息が上がる。
愛しい人。其の思いが、身体中から溢れるようだった。指先から、視線から、駄々漏れの熱情が中也を求めて彷徨っている。ふわふわと漂っていた両手は何時の間にか捕らえられ、翠は寝具に押し倒されていた。
熱に浮かされた二人の視線が絡まりあって、溶けてしまいそうだ。もっと欲しいと、甘えるような目で口を開けた翠に、中也は眉間に皺を寄せ、奥歯を噛んだ。彼か泣いてしまうのではないかと、其の頰に触れようとするも、両手は強い力で縫いとめられたまま、動かせなかった。
「其の顔、俺以外に絶対見せるんじゃねェぞ」
小さく頷く翠を見届けて、中也は続きを与え始める。意識が混濁しそうな快楽に、翠は中也の手を握り返した。