第7章 心の重力
薄っすらと意識を取り戻してからも、翠の回復は遅かった。目線が合うようになり、表情が動くようになって、其れから手指が動いたり声が出るまでに、また数日。気の遠くなる様な進度で、然し乍ら確実に癒えてゆく。
身体を起こして話が出来る程になった頃には、見舞いの連中が持参した花や果物で、室内は手狭になってしまった。食べきれずに困ると眉尻を下げた病人の代わりに、中也は、足が早い物から適当に頬張る。
上等な物は翠の口に押し込んではみるものの、多くても二口で彼女は首を横に振った。食が細いから身体が弱いのだと鎌をかけるも、一晩寝れば快癒する人とは違うと一蹴される。
「身体の不具合は今に始まったことではありません。巧く付き合っていく方法を探すしかないんです」
まるで当然の事として受け容れようとする翠に、中也は顔を歪めた。何故憤らない、何故拒否しない。其の苦痛を与えた者が目の前に居るというのに、何故寛容であるのだ。
「悠長にしてると、俺は手前を、ぶち壊しちまうかもしれねェ」
感情的になって掴んだ彼女の華奢な腕は、簡単に折れてしまいそうで嫌だった。凄んで覗き込んだ中也に対して、翠は柔らかに其の目を見詰める。
「貴方は、私を、壊さない」