第7章 心の重力
まるで決まった事の様に、翠は云う。何故分かると中也が訊ねると、翠は分かるのではないと、首を振った。
「言霊という呪です。そう願うのであれば、其れが貴方の心を繋ぎ止める杭のひとつになる。お呪いの、一種です」
祈りの言葉を与え、人を縛るのが言霊だと云う。のろいも、まじないも、加護と厄災の一体を一緒くたに願うことの、便宜的な言葉なのだろうか。
怯えて唸る獣のような中也の頰に手を伸ばし、翠は其の髪を梳いた。癖で絡んだ赤毛を優しく撫でられ乍ら、中也を呼ぶ穏やかな声に、耳を打たれる。
「生きているのか死んでいるのか分からなかった私が、貴方を見ていたら、生きたいと願うようになりました」
呪いは続くのかと、中也は怪訝な表情を浮かべた。穏やかな海のような翡翠色の瞳に自身の動揺が写り、吸い込まれそうな気がする。
「だから、傍にいてください」
懇願のようで、また決意のようで、しかしその何方でもないような、揺れ動く感情の渦の狭間でも、其の声だけは灯台の光のように、一筋の光となって心を照らしていた。