第7章 心の重力
翠はそれから、三日三晩、眠り続けた。
命に別状はないと云い乍ら、時折悩ましい様子で顎に手を当てる森から、中也は目を逸らした。居た堪れずに、仏頂面で彼女の呼吸器を眺める。
「彼女の治療は普通とは違って難しいんだよ。キメラと云ってね、母親の胎内で双子の兄弟と融合し、ひとりになって産まれてきた。処置にも快癒にも常人の倍の時間が必要だよ」
紅葉から手酷く小言を喰らった中也にとって、首領の心掛けすら、何故だか耳が痛い。翠は身体が弱いから気をつけるようにと云い置いて、森は部屋を出た。すれ違いざまに軽く肩を叩かれた衝撃で、中也の帽子がずり落ちる。傾いた帽子を片手で押さえつけて、中也はため息を吐いた。もう片方の手を翠に伸ばし、其の額に触れると、人肌とは言い難い程の高熱に眉根を寄せる。苦しそうに聞こえる喘鳴が呼吸器でくぐもり、響いていた。
翠が引き受けた異能の影響が、どれ程の負担であるのか、手に取るように判る。あの時、彼女が気を失ってから、汚濁と思われる現象は掻き消えた。つまり、汚濁未満を叩き起こして制御できる手段は、彼女を代償にして成り立つものだ。
気をつけた所で如何なるものでもあるまいと、中也は翠の額に口付けた。