第6章 異能力 第七官界彷徨
肌が、身体中が焼けるように熱い。呼吸する度に、喉から肺まで針を飲んだような痛みが転がり落ちる。荒れ狂う中也の異能に、全ての関節が悲鳴を上げて、砕けてしまいそうだった。
此れは何なのか、問いかけたくても声が出ない。身の内に「此れ」を抱えて、今まで中也が如何やって生きてきたのか不思議に思う程の暴状だった。
気道が狭まり、喘鳴に血が混じり始める。ごぼごぼと不快な咳をすると、腹が痛くて体が傾いだ。
其の時、視界に飛び込んだのは、中也の手から出現する重力球だ。掌大の其れが、次々と現れては、凡そ其の大きさとは裏腹に周囲に無尽蔵な破壊を与えて、消えてゆく。酷い有様だと翠は思うのに、中也は忌々しそうに舌打ちをする。
「小せぇなァ…」
彼が掌に篭める力を求めると、其の異能は翠から引き戻される様に、中也に向かう。其れを返してはいけないと、翠は両手で自らの身体を抑えつける様に抱いて、奥歯を噛んだ。
寄越せと恫喝する目と、其れを拒否する意志の間で、強大な力が濁流となって逆巻く衝撃に耐えきれず、翠は意識を失った。