第6章 異能力 第七官界彷徨
異能の拡張と促進、その言葉を聞いた時、道理で彼女を側に置きたくなる訳だと、甚だ納得せざるを得なかった。周囲の人間に限らず、無条件に異能生命体すら惹き寄せるとは、翠の人心掌握術も此処に極まれりと言えよう。
誰もを惹きつける其の実、誰一人踏み込ませようとしない彼女の領域を侵して、其の鉄仮面を剥いで見たかった。一方で、翠の感情全てが、中也に向いていなければ、それはそれで不満だった。中也以外の誰かが、彼女に触れると考えただけで、腸が煮えくり返るようだ。
この醜い独占欲は、何と名付ける物なのか。大粒の涙を零す翠を、此の侭壊してしまいたくなる衝動を、何と呼ぶのか。
荒れ狂う自身の異能の中で、中也は翠に引き寄せられるような、対流を感じた。光の粒が尽く流れる様に、無抵抗な力の本流が、彼女に雪崩れ込む。
気付いた時にはもう遅かった。
汚濁を拡張し其の身に引き受けた翠は、身体中に大輪の花を咲かせ、代償を全て引き受けていた。彼女に咲く花は随分綺麗だなと思い乍ら、中也が翠の手を放すと、翠は驚愕の表情で自らの手を見詰めた。