第6章 異能力 第七官界彷徨
此れ以上、彼の異能を促してはいけない。しかし、此の光に直接触れてしまっている以上、引き戻す事は不可能だ。ならば中也に潜むエネルギーを翠へと拡張させて、解放するしか道は無い。
歪み果てた空間の向こうでも、涙で霞んだ視界でも、何故か其の人だけは良く見える。失いたくない、此の一心が、如何足掻いても太刀打ちできない力に対抗する楔となる。
「何故止める」
促進されない異能に痺れを切らした中也が、問い詰める。
「貴方が、好きだから…失くしたくないんです」
首を振る翠が、奥歯を噛みしめた時、二人の合間でせめぎ合っていた力が爆ぜて収束した。歪曲した空間は正常に戻り、中也を侵食していた模様も消え去っていた。無に戻ったかに見える視野の中でも、中也の身体で増幅したエネルギーは強大な儘、其処にある。何が起こったのか理解できない翠が見上げた先で、中也が大層驚きに満ちた表情であると気づいたのは、一呼吸置いたその後だ。
中也に握られた侭だった手に、そして翠の肌の至る所に、まるで身体中に牡丹の花が咲いたように、赤黒い模様が広がっていた。