第6章 異能力 第七官界彷徨
目にも止まらぬ速さで振り下ろされた凶刃は、しかしながら、翠の横顔を掠めて地に突き刺さった。鋭利な刃で切断された髪先が、太刀風ではらはらと舞う。
物言わぬ金色の夜叉が、次いで地面ごと薙ぎ払い、翠の背後から斬りかかるも、その刃渡はふわりと宙を裂いた。振り返った翠と夜叉の目が合った其の時、まるで夜叉に感情でもあったかのように、震え慄く姿が見える。
優しい子、そう言って翠は夜叉の頰に手を伸ばした。今まさに斬りかからんとして柄を握り締める手とは裏腹に、夜叉は動かない。翠の手が頰から顎を伝って離れると、翠は困ったように首を傾げた。
「紅葉さん、もう止めましょう」
翠が其の背を撫ぜて押すと、金色夜叉は飛ぶように紅葉の下に戻る。
「もう十分、目は覚めました」
汗だか涙だか分からない物にまみれ乍ら、翠は比較してすっきりとした顔で笑った。対する紅葉は、其の美しい眉間に皺を寄せ、不可解も甚だしいとつむじを曲げる。
「何故当たらぬ。其の能力は、何じゃ」
紅葉は怪訝な表情を浮かべたまま、懐から扇を手に取り、口元を隠した。