第6章 異能力 第七官界彷徨
身体中から異能が溢れるようだった。
翠を中心にじわじわと広がる異能力の範囲が、やがて紅葉へと辿り着くのが見える。嘗てない程に濃厚で、酷く歪んだその空間は、人間にはさぞ過ごしにくい空間であると、随分前から知っていた。そして、其処は居心地が良いのだと、嬉々として寄るものがある事も、知っていた。いっそ見えぬ振りをして、此の儘死んでゆくのも悪くないと思っていたのに、今になって、翠は如何しても生きたいと思ってしまったのだ。
だのに如何して、邪な者には命を狙われ、能力を利用せんとする者には媚びられ、無駄に右往左往せねばならぬのだ。翠の心から芽を出した、やさぐれにも似た不満が、此れを機会にと急成長し、大輪の花となる。
「私が如何生きるかは、私が選ぶ」
「弱者が足掻いたところで、運命は変えられぬ」
金色夜叉が、周囲の異様な空気を物ともせずに、刃を抜いた。白刃の切っ尖が、翠を狙う。
「人は、如何生まれたかではない。何を選び、如何生きるか。運命など、其の後についてくるだけです」
屈せぬ翠に、金色夜叉は心一つ無いと云った面で、抜き身の刃を振りかざした。