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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第4章 花弁と騒動


中也の腕の中でゆっくりと深呼吸していた翠が、ふと中也を見上げてくすりと笑う。何かと問う前に、彼女は中也の心臓に耳を押し付けて俯いた。

「何だよ」

翠の冷えた指先が、中也の胸板を滑り、赤毛を弄る。

「中原幹部、良い匂いがします」

くすくすと小さく笑い顔を埋める彼女に対し、中也は苦虫を噛んだように眉根を寄せた。翠の首根っこを引っ掴んで自身から引き剥がし、顔を覗き込む。

「 珍しく取り乱してるから、気ぃ使ってやったんだがな」

相も変わらず口元を押さえて笑う彼女は、何時もより感情的だった。頰を染めた表情が、有る日に抱き締めた彼女を思わせて、体温が急激に上がる。触れたいという欲望を駄々漏れにした中也の掌が翠の頰を包むのとは裏腹に、対立する理性が憎まれ口を叩く。

「落ち着いたんなら仕事に戻れよ」

くすぐったそうに中也の手を受け入れる彼女に、離し難い情念を持て余す。一度でも彼女を抱いてしまえばこの想いも消え行くだろうかと思い乍ら、中也の指先は翠の頰から唇を辿って、ゆっくりと離れていった。
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