第4章 花弁と騒動
襲撃者の目算が定まったと翠から連絡が有ったのは、其れから数日後だ。振動する携帯電話に表示された名前を見て、中也は少なからず驚いた。
彼女の携帯端末を強引に奪い取って中也の番号を登録し、其の侭電話発信して翠の電話番号を得たのは、記憶に新しい話ではない。中也から鳴らすのは頻繁なことであっても、彼女から連絡を寄越したのは初めてではなかろうか。
此の儘表示される名前を見ていたいような、一目散に通話ボタンを押して、彼女の声を聞きたいような、相反する感情を抱えながら、中也は応答する。
「如何した、珍しいな」
幾分か弾んだ声の中也とは裏腹に、電話の向こうからは予想だにしない翠の動揺が駄々漏れてきた。電話越しではなく、彼女の狼狽する姿をこの目で見るのはさぞ愉快だろうと、足が執務室へと向かう。
「件の襲撃者が、尾崎の傘下であることは、間違いありません」
翠の実家事情については元より、彼女は作戦に必要以上の情報を与える事を好まない。翠が差し出す全ての情報が、今後の作戦に対し最低限考慮すべき内容という事になる。
「尾崎の派閥は様々ありますが、考え得る黒幕はふたつ。現家長派か、若しくは、先代正妻のご子息を抱える派閥です」