第3章 愛の在り処
いっそのこと、聞かなければ良かったと思わずには居られなかった。酒に飲まれて正体不明に止まらず、途んだ不始末だ。
「だっせェ…」
翠が逃げる様に飛び出した部屋にひとり、中也は寝具に倒れこむ。確かに葡萄酒を飲んだ記憶はある。其れ以降は、どんなに探しても、記憶の引き出しすら見当たらない。取り繕うかと過ったが、より間抜けに見えるだけで、彼女の傷が消える訳ではない。
其処まで思い悩んでから、あの傷の重大さに思い当たる。翠に想い人が居た場合、明らかに男の欲望を受けた身体では、関係を壊してしまうのではなかろうか。
深い溜息を吐いて立ち上がる。口を衝いて出た謝罪は拒否されなかったが、冷静な判断を下せる心境ではなかったように思う。
少なくとも数日間は暮らせる程度の生活用品が整っている台所で、湯を沸かす。取り敢えず、空腹を紛らわす為に、何か腹には入れておきたいと、中也は冷蔵庫を覗き込んだ。幸い、軽い朝食を作る事ができそうな材料はあった。
マグカップをふたつ並べて、インスタントコーヒーを淹れながら、中也は慣れた手付きでフライパンを取り出した。