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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第3章 愛の在り処


翠はその問い掛けに、目を丸くした。そして、言葉に詰まり目を泳がせる。

「覚えていらっしゃらないのですか?」

バツの悪い顔で、中也は目を逸らした。もう一度、すまんと謝罪を述べると、引き結ばれていた翠の口が開く。

「…何も、ありません」

元来此の女はもっと巧く嘘を吐く。見るも無残なブリキの偽言に、中也の口角が痙攣った。

「…何も無い様には、見えねェな」

中也が痛々しい歯型に触れると、翠の肩は目に見えて震える。翠の目線が中也の指先を追って胸元に辿り着くと、疎らに広がる噛み跡と斑点を見た。彼女は湯気が出そうな程に真っ赤に茹だり、小さな悲鳴を上げてから、両手で其の口元を覆う。

大きく見開かれた翠の瞳から涙が溢れ落ちそうで、中也は溜息と共に額に手を当てた。

「取り敢えず、何か着てくれ。目に毒だ」

はいと素直な返事が、僅かに中也を落ち着かせる。昨夜仕出かした事実と、未だ湧き上がる快楽への欲望に晒され続けることは、可能な限り御免蒙りたい。

あの、という控えめな声が中也の耳に響く。上目遣いも辞めろと云うべきだったと、後悔は先に立たず。

「此れ以上の事は、本当に何も。噛みたいだけ噛んだら、寝てしまわれたので…」
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