• テキストサイズ

【文豪ストレイドッグス】心の重力

第1章 防衛戦


拠点のひとつであった建物から翠が転がり出た頃には、その中から派手な破壊音が響いていた。爆発音にも似たそれは、この建物に別れを告げる必要性を鑑みずにはいられなかった。

外壁の塗装がパラパラと崩れ落ちる中、翠と同様に、同僚たちも各々の様相で建物から飛び出してくる。揃いも揃って無事な様子を見ると、其々に逃走を試みていたようだ。次々とポートマフィアの黒服たちに保護されてゆく。

「翠さん!お怪我はありませんか!?」

金糸の髪を後頭部で綺麗に纏めた女性、樋口は、翠を見るなり必死の形相で駆け寄る。そんな彼女を安心させるように、翠は手を振って見せる。

「見ての通り、無傷ですよ。久しぶりの射撃で、手が痛いくらいです」

はぁとため息を吐いて項垂れる樋口を前に、翠は小銃をホルスターに収めた。腕も手も痛い。これだから小競り合いは嫌いだ。

息の根を止めるかのような轟音を最後に、辺りは静まり返る。見上げると、2階の窓から人間らしき物体が投げ捨てられ、割れたガラスと共に、ぐしゃりとアスファルトに落ちた。続けて赤毛の人が窓から降り立ったが、此方はコツリと靴音が響くだけだった。

「樋口、それ回収しとけ」

はいと歯切れの良い返事と共に、生きているかどうかも怪しい男を確保する樋口と、事も無げに懐から携帯を取り出す赤毛の男、中原中也を同時に見ながら、翠は外套の内ポケットにある作業用端末を握り締めた。

端末の振動が掌に伝わり、何時もの設定時間通りにアラームが鳴っているのだと思い当たる。仕事をしなければ。翠は端末を取り出し、視線で上司を探した。
/ 100ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp