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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第1章 防衛戦


銃声が耳に煩い。そう思いながら、翠は銃弾を装填した。背を預ける防弾扉に片耳を当てて、人の動きを探る。襲撃者の狙いは翠らポートマフィアの事務員だ。人質にでもするのだろう。

とんだ馬鹿者だと、翠は襲撃者を憐れむ。我ら事務員など、いくらでも代わりはいる。命の価値が、要求される物品以下であると判断されて、切り捨てられるに違いない。悼んではくれるかもしれないけれど。

外套の内ポケットに潜ませた作業用の端末が、そこに在ることだけを確認し、翠は銃声の中に躍り出た。ここから逃げ出せれば、それで良い。戦闘員のように相手の息の根を止める手段を持ち合わせない翠に唯一与えられた小さな拳銃と、只生きるためには何の役にも立たなかった異能力を駆使して、人並みを駆け抜ける。

行く手を阻む男の足を撃ち抜き、掴み掛かる手の根元に銃口を突きつけた。翠の異能力が発動する光に、目前の男が怯んだ隙を確認し、引き金を引く。ふわりと体が軽くなる感覚に、翠は地を蹴って男たちの頭上に舞い上がった。頭上でくるりと1回転して、地に足を付けた時には、異能力を潜めてまた駆け出す。重力操作を長時間使い続けるのは、体への負担になってしまう。出来る限り消耗したくないと人並みで体を捻った時、すり抜け切れなかった男に左手を捕らえられる。

舌打ちをひとつして、左手は諦めるかと奥歯を噛んだ瞬間、目の前の男が消し飛んだ。先程まで襲撃者たちが群がっていた場所に、ひとりの男が佇んでいる。

ふわりと揺れる赤毛の上に、黒い帽子が乗っていた。その小柄な体躯からは、後ずさりしたくなるような威圧感が放たれている。

「此方が当たりじゃねェか」

ぶつくさと何かに対する不満を垂れ流しながら、彼はその瞳に翠を映して眉間に皺を寄せる。

「外は片付けたから、早く出ろ。ボサッとすンな」
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