第3章 愛の在り処
腕の中に感じる暖かな体温と、甘い女の香りが、中也の覚醒を妨げる。もっとと其の髪に擦り寄り、腰の括れを撫でた時に、中也は、はてと、目を覚ました。
布切れ一枚の女を搔き抱いたまま目覚めたことに頭が付いて行かず、上体を起こして周囲の状況を確認する。場所は港のセーフハウスか。外套とネクタイは着込んでいないが、着衣に乱れもない。
中也の腕の中で、図々しくも惰眠を貪る女を揺り起こそうと、其の肩に手をかけるも、首から胸元に広がる情事の跡に、目を見開いた。昨日彼女を此処に横たえた時には、こんなものなかった筈だ。
「おい、起きろ」
記憶の無い事象に戸惑いはするが、其の肢体を剥き出しにされた儘では中也が持ち堪えられそうにない。思わぬ据え膳に身体が反応してしまっているが、其れを据えたのは自分かという疑問符が防壁となる。
翠を抱いていた腕を引き抜くと、彼女は身をよじって目を開けた。起きたかと中也が覗き込むと、彼女は三度瞬きをし、周囲を見回した後、中也に視線を戻す。そして忽ち頰を赤く染めて息を飲んだ。
その反応に、中也が持つ疑惑が確信に塗り替わるのを感じながらも、問いかけてみる。
「すまん、俺が何をしたのか、教えてくれ」