第2章 闇を食む
口から心臓が飛び出そうだった。早鐘を打つ鼓動に耐え切れず、翠は強く目を閉じた。
中也の与える熱が、翠の思考を奪ってゆく。耳朶を舐めた舌が首筋を這い、辿り着いた首元に噛み付いた。痛みに耐え兼ねて出た翠の声は、嬌声にも似た悲鳴だった。
その声に愉悦し、中也は次々と翠に吸い付く。噛んでいるのか舐めているのか、翠にはもう判別が付かなくなっていた。首筋から胸元に広がる鬱血痕と歯型を満足気に眺めて、中也は翠の首筋に、其の顔を埋めた。
「翠…」
不意に重くなった中也の体重が全て、翠に覆い被さる。苦しいのは、押し潰された所為か、息が上がっている所為か。奥歯を噛んで耐えていた翠が、中也の穏やかな吐息に気付くまで、其れなりの時間が必要だった様だ。
不思議に思い目を開けた翠が見たのは、中也の穏やかな寝顔だった。