• テキストサイズ

【文豪ストレイドッグス】心の重力

第2章 闇を食む


「何ですか、今のは」

翠の頬を汗が伝い、顎の先から滴り落ちた。喉の奥からゼエゼエと不快な音が聞こえ、気管支が痛む。空間が歪み、酷く入り乱れてしまった感覚が全身を侵食し、自分の境目が分からなくなりそうだった。

「異能の暴走か。見た事ねえから、そうとは云い難いがな」

立っているのもやっとな翠とは対照的に、中也は涼しい顔で答える。精神までも侵食せんばかりの異変に、翠は対応出来ずにいた。

笑う膝が翠の体重を支え切れずに、頽れる。此方へと歩く中也の姿と、建物から避難していた黒服たちが様子を伺うのが見えた。入口は歪んで折れ曲り、屋根や壁は剥がれ落ちて、廃墟の様相を呈している。

立地の良い倉庫が、此の儘打ち捨てられるのも勿体無いと、修繕の資金計画が頭を巡る。同時に、取り散らかした翠の心と身体が癒えるのは、一体何時になるのだろうかと、悩ましく思う。

目の前で立ち止まった中也が、這い蹲る翠に手を伸ばす。その指先が、翠の頬から輪郭を伝い、顎を掬い上げた。無理な姿勢に、翠の喉が小さな悲鳴を上げる。

「手前、何を考えていやがる」

それは此方の台詞ですよという抗議は、心と脳を行ったり来たりするだけで、言葉にはならなかった。

この人は私を、どうするつもりなのだろう。

そう思い乍ら、翠は意識を手放した。
/ 100ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp