第2章 闇を食む
元々、尾崎家との取引は紅葉から中也へ引き継いだ案件のひとつだった。その子女を引き取ったとは聞いていたものの、子細は明かされぬまま首領預かりとなった。首領の下にあるのならばと、中也も距離を置いていたが、実際にその有様を見ると、そうは云って居られないことに気付く。
翠の身動きや洞察力、更に状況検証の早さは、単なる下位構成員のそれではない。彼女を調べれば調べる程、森は太宰二号でも作るつもりなのかと疑惑では留められない様な確信が湧き上がる。太宰を見ているようで苛々すると思っていた中也の感覚も、強ち間違いではなかったようだ。
一方で森は、中也が翠に近付くことを咎めなかった。それならばと、太宰二号にはさせぬ様干渉することに決めた。あんなもの、ふたりもいては腹立たしいだけた。
彼女の、状況の変化に敏感な性を利用して、種々の感情を引き出すのは簡単だ。太宰にはない、怯えた表情を見せたのは、とても愉快だった。
翠の怪我が治ったことを確認してから、体術を仕込んでみたが、それも筋がいい。重力操作の異能も手伝ってか、こと逃走に関しては、黒服では相手にならなくなってしまった。中也が手づから相手をしてやると、黒服も逃げ出す混戦となるのも一興だ。全く攻撃に転ずる様子がない事だけが欠点ではあるが、彼女の存在意義がそうではないと判断する。