第2章 闇を食む
用を済ませた樋口を執務室から送り出すと、翠は扉を閉める。その頃には中也の足音が背後に迫り、恐怖に耐えられそうも無くなっていた。足が竦んで、手は微かに震えている。
扉に手を掛けたまま動けずにいると、黒手袋が左手首を掬っていった。その掌で、数日前まで包帯が巻かれていた部分を転がされて、検分される。
その様子を戦々恐々と見守り、翠は何事かと中也を見上げた。
「痛みは引いたか?」
思いの外気遣わしげな声に戸惑いながらも、翠は、はいと頷いた。その返答に満足したのか、中也は手を離す。そのまま扉に手を伸ばしてドアノブを引いた。
「一寸付き合え」
状況が飲み込めずに口を開けている翠を振り返り、中也は云い募る。
「ほら早くしろ。行くぞ」
その言葉で我に帰り、翠は慌てて執務室の鍵を握った。