第1章 Overture
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カフェワゴンに、昨日来たお客様。
見るからにしゃんとした身形のその人は、余裕を感じさせる豪快な笑い声を上げ、こちらに向かってくる。
「あんなクラスの石なら、裁可を取るまで貸金庫にしまう必要も無いだろう。
俺の金庫でいい。
あ、ブラック三つね、お嬢さん」
白色の混じった髭を蓄えた、その紳士の顔には見覚えがある。
テレビで何度か見た…首都銀行の、頭取。
お連れ様の分も注文し、部下と思わしきその人たちが恐縮の声をあげる中、財布を取り出す。
「お孫さんですか?可愛らしいですね」
財布のポケットに入った、小さな女の子の写真が見え、声をかける。
誕生日ケーキを前にして、微笑む写真――
「…あぁ、この写真かね?
そうだろう、うちの孫娘なんだ。
一昨日で四歳になった、その時の写真でね…」
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赤く分厚い絨毯は、私の足音をのみこむ。
奥まで辿り着き、デスクの一番下の、大きな引き出しを開ける。
出てきた卓上金庫の四桁のダイヤルを、一昨日の日付に…
0、4、と合わせていく度、カチカチと溝にハマる音が鳴り。
四桁目を合わせた時には、既に勝利を確信する。
ゆっくりとレバーを引くと、やはりロックは解除されていた。