第1章 Overture
親が子を思う気持ち、孫を思う気持ち…
家族を思う気持ちは、こんな荒んだ世の中でも普遍なのだろうか。
財を蓄え、富を占有するアッパーの人間達、
その中枢である首都銀行の頭取が見せた、孫を思う顔に。
躊躇いを覚え、蓋にかけた指がつらつらと縺れる。
――でも、私にも、罪を重ねてでも守りたいものがある。
あの時の決意は変わっていない。
もう何年も前のことなのに、まざまざと思い出せる情景に、頭を振り払って、今度こそと蓋を開ける。
「…綺麗」
思わず小さく声を漏らすほど、美しく澄んだ、しかし深みのある碧色の宝石。
見たことはないけれど、海とはこんな色なのだろうか――
手に持って翳してみると、月の光を吸い込み、ゆらゆらと揺らめいているようにも見えた。
魅入られたかのように、目を凝らす…
その時。
ぴぴっ、と背後で高い電子音が鳴るのに、反射的に振り向く。
扉がゆっくりと、スローモーションのように開く――