第5章 pavane
「青春だねぇ」
「羨ましい、俺にもそんな時代があったっけなぁ」
「もう、私と刑事さんはそんなのじゃないですよ…!
だって、あの人は、」
「「あの人は?」」
「…あの人は、女の子なら誰でも好きみたいでしょう?」
なんだ、何も無いのか。何かあったんだと思った…口々に盛り上がるおじ様たちを横目に、ひっそりとため息をつく。
あの人は、と言いかけて…危ない、と口を噤んだ。
昨晩彼と会ったのはカフェ店員のじゃない。
怪盗さんの、レディなんだった――
カフェ店員のは、善良な一市民だから。
イケメンの刑事さんが気にかけてくれるのに一喜一憂する、これで、間違っていないんだもの。
怪盗さんのように、警察を目の敵になんてしていない…
おじ様たちは飲み終わったカップを返して、また職場へと戻っていく。
私の内心も知らずに、にやにやとした笑みを残して。
気付けばもう一時前、昼休みも終わる頃。
考えまいとしていたら、いつの間にかこんな時間。
未だに高い陽を見上げると、またくらり、と目が眩む。
今日は、あの人は来なかった――