第1章 Overture
犯罪多発国家の日本。
その中でアッパーの街には…正しく言うと、アッパーの街にだけは、至る所に監視カメラが設置されている。
勿論それを、監視する者が24時間センターに常駐している――万全の対策です、と偉い人は言うけれど。
大量の監視カメラを人の目でチェックしているのだから、当然抜けも漏れもある。
ましてや深夜帯、おかしな動きが無ければ注意も散漫だろう。
夥しい数のカメラの内、幾つかが録画をしていないなんて、気付ける訳もないのだ。
(リモコンが手に入ってから、お仕事も楽チンになったな)
リモコンを手に入れる以前と言えば…
監視カメラの死角を掻い潜るため、無理な体制を取ったり。
目もくらむような高さを移動したり。
鼠や虫が蠢く地下を進んだりと、苦労が絶えなかった。
危険を顧みず、リモコンをスってきてくれた愛すべき「協力者」の顔を思い浮かべ。
彼の為にも、今夜も失敗などしない、と強く誓う。
この建物は入念に下調べ済だ…
仲良しの清掃業者のおじ様――アメリカンが好きで、毎日の様に訪れては、一服を兼ねてゆっくりして行かれる。
彼が世間話の合間にポロリ、と教えてくれた抜け道。
『あそこのトイレは、何故だかいっつも黴っぽくてねぇ。
お願いして、一番奥の窓だけ常に開けさせて貰ってるんだよ。
銀行だからセキュリティも万全だろうし、そこまで細かいこと気にしないのかねぇ』