第1章 Overture
夜の帳が下りて、静まりかえった街に。
カツカツと、私の足音だけが響き渡る。
昼の居場所である、噴水公園を横目に西へと歩を進めれば…
私の、夜の職場。
アッパークラスの洗練された街並みが広がる。
先程までいたミドルクラス…平民街とは全く装いが違う。
美しく整列するカラータイルで舗装された路面は、鳴っていた足音を吸収してくれる。
見上げれば目眩がしそうなほど、高いビル街を更に奥へ、奥へと。
「こちら側」は、夜も眠ることなく街灯が煌びやかに光る。
勿論、たまにすれ違う仕事帰りと思しき人に、にこやかに微笑んで会釈することも忘れない…こんな遅い時間まで、お互いご苦労様です、と。
――これから成すことを、思えばこそ。
盗人はスラム街の出身だろうと信じきっている奴らに、疑いの目を向けられないように。
此処に生きる者の一人なのだと、そんな顔で堂々と歩き続け。
メインストリートの突き当たりの建物が、今日の仕事場だった――
旧時代の栄華を感じさせる、堅牢な煉瓦造りの建物を見上げ。
手始めに、と持っていたリモコンでその辺の監視カメラのモードを切り替える。
【REC】(録画)から、【PLAY】(再生)へ…