第4章 Interlude
ひゅう、と風鳴りの音が耳に入り、そこで漸く我に返った。
段々遠ざかっていくたくさんの足音に、耳を集中させる。
どうやら自分は完全に見失われたらしい。
やる気の無い、頭でっかちの集団だから当然か、と…安堵の息をついた、その時だった。
「動くな」
物音もなく背中に突きつけられた、硬い感触。
ドスの効いた低い声に、思わずひゅっと息を呑む。どきどきと自分の心臓の音ばかりが、聞こえる――後ろに立っているらしい男は、一言も発さない。
最早最後か、と思わず目を閉じる。
永遠にも感じられるような、長い時間…
「なーんちゃって、ね。びっくりした?」
かちゃり、という音と共に、突きつけられた銃口は下ろされた。
不本意ながらも聞き慣れてしまった、急に気の抜けるような声に、苛立ちながら振り返る。
いつにも増してにやついた笑顔を浮かべながら…刑事は、私の顔の横にパシン、と手をついた。
まるで逃げ場を阻むような行為に、仮面の下から彼の顔を睨みつける。
目が合ったその時、彼はまた楽しげに目を細めた。
「久しぶりだねー。会いたかったよ」
こっちは会いたくなんてない、そう間髪いれず返したい気持ちを抑え。
声を聞かせるのは良くないだろう、と押し黙ったまま。
腹に一発入れて逃げてやる、と隙を伺うけれど…ぼんやりとただ立っているだけに見えて、その実そうではないのだろう、と彼の雰囲気に思わせられる。
「抵抗しないのは、賢明だね。
…ところで、俺は忠告した筈だけど。
君は女の子で、こんな事はすべきじゃないって」
こんな事、なんて言い草に奥歯を噛み締めながら。
そりゃ、盗みだけど、犯罪だけど…
したくてしてる訳じゃなければ、自分の為にしている訳でもない。
言葉に出せない思いを視線に乗せるように、一層キツく睨みあげると。
まるで昨日の夜のシン…月を背に立ち、表情の読めない立ち姿とは対照的な、闇夜でも輝くような笑顔を浮かべ。
「…反抗的な子には、お仕置きだねー」
まるで覇気の感じられない声で、そんな物騒な言葉を吐いたのだ――