第2章 Prelude
「ちゃんはさ、警戒する所を間違ってるんだよねー」
「なっ…」
「ぷるぷる震えてさ、怯えた目を向けるくせに。
こうしてほいほいオトコに自分の住んでるとこ教えちゃうの、良くないよねぇ」
普段より低く、潜められた声。
薄暗い街明かりが、彼の白い顔に影を落とし。
何処か凄みを感じさせ、雰囲気に飲まれたように、目が離せない。
「…男っ、て…あなたは、刑事さんでしょ…っ!?」
「勿論、そうなんだけどー。
残念、もう22時を過ぎちゃったから…元々、何も無ければ直帰する予定なんだよね」
オンとオフは使い分けるタイプなんだー、と。
まるであの夜の台詞を吐く彼に、思わずごくり、と息を呑む。
今更だけど動揺を悟られたくない、と、考えを巡らせる――
普通の、一般人なら。
盗みなんてしていなくて、何の後暗さも無かったなら、こんな時どうするのだろう…?
「加虐心を煽るから、その目も逆効果かな」
刑事さんの空いた方の手が、すっとこちらに向かって伸ばされる。
あの夜も確か、そうだった。
首筋に伸ばされた手を思い出す、なら、今回は…?
睨みつけた瞳からは何も読み取れず、慣れない触れ合いへの恐怖は増すばかり。
ばくばくと、自分の心臓の音が煩いほどに鳴り響く。