第2章 Prelude
「あ、ここ?
ふーん、良いアパートメントだね。レトロでさ」
「レトロ、ですか…?
貴方の住まいに比べたら、きっとボロ家なのでしょうね」
ついつい卑屈な物言いをしてしまって、怪訝な目を向けられ。
刑事さんには他意がなかっただろうに、流石に失礼だったか、と考えるも――
別に馴れ合いたい訳じゃない、これに懲りて近付かないでくれた方が、と思い直す。
ありがとうございました、と言い捨てて、エントランスへの階段を一段、上る…
「ふふ、何に怯えてるのか、知らないけどさー」
「…え?」
振り返ったのが、間違っていた。
ニヤついていた彼の目が見開かれ、じっとこちらを見据えているのに気付いてしまう。
何故だろう、その表情は昨日も見た…やけに憐憫を誘う、光の無い瞳。
びくり、と魅入られた様に立ち竦む私の手を、刑事さんはやたらと慣れた手つきで絡めとった。
軽い力の筈なのに、何故か抗えないまま。
一段下に立つ彼と、丁度良い高さの視線が交わる。
「…な、にっ…」
何故か声が震えるのを、留めたいのに。
弱々しく睨みつける私を、彼はもうすっかりいつも通りの、いけ好かない笑顔で見つめている。