第2章 Prelude
「や、こんばんはー。
見回りしていたら君に会えるなんて!なんて幸運だろう」
確かに、誰もいないのを確認した筈だった。
にこにこと微笑んだままの彼の表情。
何を知っているのか、何を考えているのか読み取れないまま。
もし盗っ人だと気付いていたら、すぐに逮捕されていてもおかしくない…
スラムから出てきたのを見ていたら、こんなにフランクには話しかけて来ないはず。
何しろ、アッパーの奴らは選民思想が高い。
警察なんて、その最たる物なんだから――
「見回りご苦労様です、刑事さん。
友人と食事をしていたら、こんな時間になってしまいました」
「…へぇ、そうなんだ。
君と食事を共に出来る、その友人が羨ましいな。
いつか俺とも、是非」
人好きの良さそうな笑顔と、軽い言葉が鼻につく。
どうせ、スラム出身だと知ったら相手にもしない癖に――
彼の漆黒の髪が光を吸い込んで、艶めいている。
良いお育ちだこと、と心の中で毒づく。
「えぇ、是非。遅いので、失礼しますね」
「待って、夜道の一人歩きは危ない。送るよ」
踵を返そうとした瞬間、背中からかけられた声に思わずため息をつく。
なんて面倒な事を、と口に出しそうになって、何とか留めた。
「っ、え…?そんなの、お仕事中に悪いです。大丈夫ですよ」
「はは、仕事中だから、でしょ?」