第2章 Prelude
ぐりぐりと私の胸元に頭を擦りつけていたちびくんを、シンが無理やりに引き離して抱える。
それを機に、帰ろうと私も立ち上がった。
年長の子達とハイタッチを交わし、年少の子達の頭を撫でてやる。
中にはぐずぐずとべそをかいてくれる子もいた。
愛おしさに駆られてぎゅーっと抱き締める。
本当の親の温もりを知らない子供たち――自分もそうされて嬉しかったな、とぼんやり思い返しながら。
漸くドアまで辿り着く。
叢雲に月が隠され、辺りは真っ暗だった。
気味は悪いけど、都合は良い。
「送ってあげられなくて、ごめん」
「大丈夫、私、強いもの。
皆をよろしくね。おやすみ、シン」
「…そうだね。おやすみ、」
シンがぎゅっと、ちびくんの身体を抱えなおした。
私に向かって、振られる小さな小さな手…
守らなければ、とまた強く思い、踵を返す。
ふぇーん、とちびくんの泣き声が聞こえて来るけれど、知らないふりをして角を曲がった。
家族の皆を残して、自分だけミドルクラスの街で暮らす事。
誰に対して分からないけれど、申し訳なさを感じてしまう。
初めての盗みで得たお金は、部屋代に使った。
スラムの人間が使う、裏のルート。
普通よりお金はかかるけれど、審査も無くミドルクラスの部屋を借りる事が出来た。
――そこに住んでからが、この国で人として生きるための第一歩のようなものだから。