第2章 Prelude
「…やっぱり、にやらせるべきじゃなかった。
あそこで止めておくべきだったんだよ」
「なら、あの人の遺志はどうなるの?
私がやらなきゃ…皆はどうなっていたと思うの?」
「…じゃあ、僕がやるべきだった」
「シンはあの頃、身体が弱かったでしょ。
今もそう、私の方が早く走れるし、身のこなしも軽いわ」
たらればの話は嫌い、と小さく付け足すと、漸くシンは黙った。
話し続けたら、女だからって…と発展して、もっと大きな喧嘩になる所だ。
シンはほんの少し口を尖らせ、前を向いて歩いている。
大きく重い紙袋を、軽々と抱えて。
身体が弱いなんていつの話だよ、と。
喧嘩になればシンがよく言う台詞を思い出し。
昔とは違うんだよね、と、昔と同じように空いた手を握ると、シンは大げさに溜息をついた。
「…いつもそうやって、誤魔化すんだもんな。
でもまあ、今回はごめんね。
ニュースで見ちゃったから、気がたってた」
「シンは心配して言ってくれたのに、ごめんね。
…でも、泥棒に、向きも不向きも無いわ。
永遠に続くわけじゃないし、続けられないって分かってる」
手を繋いでごめんね、と言い合えばそれで終わり、いつもそう。
でも、珍しくシンが繋いだ手に力を込め、急に立ち止まる。
「約束して。
あの刑事には、近付かないで」
「自分から近付く事なんか、ある訳ないわ」
「…でも今日、カフェにそいつが来てただろ」