第2章 Prelude
思わず目を伏せた、その時。
背後から小走りで近寄ってきた誰かに、ばっ、と音を立てて抱えていた大きな紙袋を奪い取られた。
その勢いで天辺から転げ落ちた芋をさっと拾うと、細身のその男は荷物を持ったまま駆け出そうとする…
「もう、いきなりやめてよね…シン」
ぴたり、と動きを止め。
私の言葉に、笑みを浮かべながら。
彼は少しバツの悪そうな顔で、振り返った。
「、気付いてたの?」
「当然でしょう。どれだけ一緒にいると思ってるの」
スラムは、法律の外側にある地帯だと言われる。
民事不介入だのなんだのを盾に、警察もここでは盗みだろうが暴力沙汰だろうが、外にさえ漏れなければ黙殺する。
盗みなんて日常茶飯事なスラムに生まれ育った、シンと私…幼馴染ならではの、ジョークと言った所だろうか。
ゆっくり歩いて隣に追い付いた私に合わせ、シンもくるり、と前を向き直った。
そうして並んだまま、歩き出す。
「今日は何にするの?」
「少し冷えるし、あったまりたいからシチュー。
でも今日はパーっとやる日だからね、牛肉買ってきた」
「そうなんだ…、有難う」
急にトーンを落とし、しおらしく有難う、なんて言うシンの本意を問うように見つめる。
苦笑しながら街頭テレビを見たよ、という彼に、私も苦笑を返すしかなかった。