第1章 Overture
「先程からもトップニュースでお伝えしていますが、非番の刑事のお手柄です。
昨夜、首都銀行に侵入しようとした怪しい人物を…」
カフェワゴンの前で営業妨害もいい所の騒動が起きている中、私は一人テレビを見つめる。
やってしまった。
まずい。
そんな考えがぐるぐると回って、目の前が明滅するような感覚。
場面は転換し、警察本部の前で刑事がインタビューを受けている画に切り替わる。
「お手柄でしたね!」
「いえ、そんなことは…たまたま遭遇したまでです」
「今回、賊は女性だと言うことでしたが?」
「そうですね。顔ははっきりとは見えていませんが…可憐なレディであった事は間違いありません」
「警察のプロファイルが間違っていた、捜査は一からやり直しという事になりそうですが…陣頭指揮を取られるのですね」
「今のところ、彼女に遭遇したのは私だけですから。そのつもりです」
いけ好かないにやにや笑いはそのままだけれど、はきはきと話す姿にイライラとしながら。
でも目が離せない…この男が陣頭指揮、だって?
「何にせよ、相手は女性です。なるべく手荒な真似はしたくない…女性は大事に扱うべきですからね。
…そうだ、彼女は賊、というよりも…怪盗、と呼ぶのが相応しい、知略に富んだ人物だと想像しています。
彼女との対決が、今から楽しみです」
そんな決め台詞めいた、臭い言葉を吐いて去っていく刑事の後ろ姿で、また画面は切り替わり。
容姿端麗なエリート刑事と、正体不明の女怪盗、なんてセンセーショナルな話題で盛り上がるスタジオ。
見ていられなくて、またテレビの電源を切った。