第1章 Overture
「っ、と。あっぶねー」
ぱしん、と乾いた音と共に。
私の渾身の裏拳は、男にいとも簡単に受け止められた。
おっかねーの、と笑いながら、もう片方の腕も纏められ。
ならば、と繰り出そうとした足の間に、男の脚がずい、と割り挟まれる。
「手首もほっそいなー!ちゃんと食ってんの?」
両手首を纏めて掴まれ、脚の動きも封じられ。
どうしようも無くて、仮面越しではあるが精一杯睨みつける。
男は、私の身体の上から下まですっと視線を走らせ、また口を開く。
「…さっきの話の、続きねー。
もし後ろ盾や仲間がいるなら、感心しない。
か弱いレディがこんな事をしているのを、黙って見てる奴らがいるなら、そいつらはろくなヤツらじゃないよ」
心配するような表情と、諭すような口調で、男はゆっくりとそう言った。
訳知りめいた物言いに、神経を逆撫でされ、かっと頭に血が上る感覚に突き動かされて口を開ける。
「…アンタには、一生分からない事だっ…!!」
相変わらずじりじりと睨みつけたまま、そう言い放つ。
男はほんの一瞬、凄く哀しそうな表情を浮かべた。
何故そんな顔を、と考える暇も無く、また癇に障るニヤケ顔にすぐ戻る。
「答えなかったからハズレかもって、ちょっとだけ思ったけど…
声聞くとやっぱり女の子だねー」