第1章 Overture
「わーお、ビンゴ!やっと会えたー!!」
ドアを開け、目が合い。
開口一番、その男が放った言葉に私はただ凍りつく。
想像していた…警備員、警察官、宿直の行員に、はたまた頭取御本人。
そのどれとも違う彼は、目を細め笑いながら、こちらを見ている。
言葉の意味を咀嚼するより速く、また彼はにやり、と笑い口を開けた。
「最近、巷で噂の連続窃盗犯さんだよねー?
ケーサツのお偉方のプロファイリングだと、スラムの少年が集まった小規模な窃盗団、って見立てだったんだけど。
まさか一人だったとは…それも、可憐なLadyだ」
言葉が進むにつれ、青ざめていった私の表情はきっと、仮面で隠せていると信じたい。
じっと私を観察するように見開かれた黒い眼は、何故かイミテーションのガラス玉の様に見えて。
熱を感じられず、ぞっと寒気が走る。
「わわ、そんなに怯えないでよ。
俺、こーゆーもんです。
でも今日は非番だから安心して!
オンオフは、しっかり分けたいタイプなんだー」
やはり、というかなんと言うか、警察手帳を呈示され。
思わず身構える私に、彼は相変わらず軽薄な、間延びした口調でそう言った。
安心も何も、と睨みつける。
元々細身、というより貧相な身体だと自認している。
加えて身体のラインが出ない服を纏い、仮面をつけ。
髪の毛もまとめてキャスケットの中だ…何故、女だとバレたのだろう?
性別を隠すことが、私本人に捜査が及ばない為の、手立てのつもりだった。
これ以上対峙していたくないけれど、出口は彼のいる方だけ。
窓を開けるために背中を見せるなんて、危険すぎる…
焦る私に気付いてか。
彼はまたさっきの様ににっこりと、目を細め笑った。