第3章 黒の時代(本章)
治ちゃんはその場から動かなかった。
否、動けなかった。
ただ、天井を見つめていた。
壊れてしまう気がした。
友達を一度に二人、失う気がした。
私は気がつくと
後ろから治ちゃんを抱きしめていた。
治ちゃんの手が私の腕を強く掴んだ。
「……葉琉ちゃん。
私はポートマフィアを抜けるよ」
「……うん」
判っていた。
だが、治ちゃんが私を連れて行く事はないだろう。
私は治ちゃんの背中に
額をつける形で俯いた。
「葉琉ちゃん。
君には葉月ちゃんがいる」
「……うん」
「君が守る者達が
ポートマフィアには沢山ある」
「……うん」
治ちゃんは直ぐに次の言葉を言わなかった。
「……だけど私は君を、葉琉を手放したくない」
私は顔を上げた。
治ちゃんは振り返り私を見ていた。
その顔は今にも泣き出しそうな子供のようだった。
いまの私に、治ちゃんを一人にするという選択肢はなかった。
何よりも大切だった姉よりも
織田作の言葉と、治ちゃんを大切だと思った。
「私でも、人を助けられるかな?」
私の言葉に治ちゃんは驚いていた。
だが直ぐに微笑んで
「大丈夫さ。葉琉は優しいから。
私が言うんだ。間違いないよ」
と、言ってくれた。