第3章 黒の時代(本章)
織田作は洋食屋フリイダムにいた。
私達が着くと同時に
織田作は店を出て行く所だった。
「織田作!」
「太宰に、葉琉もか。どうした」
「織田作。君が何を考えているか判るよ。
だけど止めるんだ。そんな事をしても」
「そんな事をしても子供達は帰ってこない?」
織田作は治ちゃんの言葉を遮るように言った。
治ちゃんは言葉に詰まったが
説得を続けた。
しかし、織田作が首を縦に振る事はなかった。
「織田作。おかしな云い方を許して欲しい。
でも行くな。何かに頼るんだ。
この後に起こる、何か善い事に期待するんだ。
それはきっとある筈なんだ。
……ねぇ織田作。私が何故マフィアに入ったか知っているかい?」
織田作は黙って治ちゃんを見た。
私も聞いたことのない話だ。
「私がマフィアに入ったのは、何かあると期待したからだよ。
暴力や死、本能に欲望、そういうむき出しの人間に近いところにいれば
人間の本質をより近くで見ることができる。
そうすれば何か……生きる理由が見つかると思ったんだ」
織田作と治ちゃんは
お互いを見ていた。
織田作が言った。
「俺は小説家になりたかった。
任務でも人を殺したら、その資格がなくなると思った。
だから一人も殺さなかった。
だが、それももう終わった。
今の望みは、ひとつだけだ」
織田作は私達に背を向けて歩き出した。
「織田作!」
私は叫んだ。
だが、織田作が振り返る事はなかった。